大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)1951号 判決
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【判旨】
1 原告は大阪府知事の免許を受けた宅地建物取引業者であるが、原告の従業員小野内恵一は、昭和五四年九月九日、同日付朝日新聞の不動産広告欄で、本件物件が代金四七九八万円で売りに出されていることを知り、売主と表示されている近畿商事株式会社(以下近畿商事という)に電話で所在地を確認したうえ、翌日の一〇日本件物件所在地に赴き、近畿商事の現場担当者に問合わせたところ、本件物件の代金額は広告記載のとおりで、仲介手数料は近畿商事からは出さないので顧客から受領するようにとのことであり、本件物件の説明を受け、本件物件の平面図を受取つた。なお、本件物件の所有者・売主は大平産業であり、近畿商事は、太平産業の建築した建物を販売する子会社で、太平産業側の仲介者となつていた。
2 原告は、「不動産情報」と題する広告を新聞折込みで配布していたが、同年九月一〇日「不動産情報」に登載の大淀区本庄東一丁目の店舗付住宅(代金五二〇〇万円)について、被告から電話で間合わせがあり、翌日の一一日被告方から右物件への案内依頼があつて、原告の従業員小野内恵一と上馬某が被告のほか被告の姉、被告の弟と称する宮本某を右物件所在地に案内し、売主立会のもとに右物件を見分させた。その際、宮本某が被告を代理し被告の面前で、原告方で予め用意していた「御客様カード」に、依頼者被告として必要事項を記入して小野内に交付した。被告が右物件の価格が高く、連棟で一戸建でないとの理由で買受けを希望しないので、小野内らは、宅地を購入して建物を新築するようにすすめ、大阪市内の売却予定の宅地(三〇坪)に被告らを案内したが、坪当り百二、三十万円で被告には予算的に無理ということであつた。次いで、小野内らは、被告らを本件物件に案内し、本件物件が一戸建であること、大通りに面していること、地下鉄の駅に近いこと、被告が開業中の店舗(スナック)に近いので得意先をそのまま引き継ぐことができることなどの利点を挙げてすすめ、被告も本件物件の購入を希望し、銀行からの購入資金借入れについて2.3日検討したいということになつた。その間に他に売却されるおそれがあるので、小野内が被告を近畿商事に案内し、近畿商事の担当者に対して被告を本件物件の買受希望者であると紹介したうえで、被告から同担当者に一〇万円を交付し、同担当者より同年九月一三日の正午まで他に売却しない旨の確約を得た。
3 同年九月一三日小野内が電話で被告に本件物件を購入するかどうかを問合わせたのに対し、宮本某から、本件物件の店舗が狭いので購入をやめたい、近畿商事に預けた一〇万円を返えしてもらいたい旨の回答があつたので、小野内は、近畿商事に対し右金員を被告に返還するように連絡した。その後同年一一月になつて、小野内は、たまたま本件物件の前を通りかかつて本件物件内の被告を見かけ、登記簿を調査したところ、前記のとおり被告ほか一名に所有権移転登記がなされていることを発見した。原告から委任を受けた原告訴訟代理人は被告に対し、昭和五五年二月一九日到達の内容証明郵便による書面で、本件物件売買の仲介報酬として一四九万九四〇〇円を右書面到達後一週間以内に支払うよう催告した。
右のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。
右事実によると、原告は、被告の委託に基づいて、被告に本件物件を見分させ近畿商事を売手側として紹介し、近畿商事に被告を買手として紹介することにより、近畿商事を通じ太平産業と被告間の売買交渉に端緒をつくつたものであるが、その後の売買成立に至るまでの売買の折衝、条件の決定、契約の締結、これに伴う事務処理等はすべて直接当事者間で行われたものである(原告がこれらの行為をなしたことを認めうる証拠はな判旨い)。しかし、右のごとく、仲介業者が当事者間に成立した売買につき機縁、端緒を与えた事実があり、右の行為と売買契約の成立との間に因果関係が認められる以上、その後当事者が仲介業者の媒介を排除し、直接売買契約を締結したことについて正当な事由が存しない限り、民法第一三〇条の法理により、仲介業者の媒介により契約が成立したものとみなして、報酬を請求しうるものと解するのが相当である。本件において、前認定の経緯に照らし、原告の前記行為と本件物件の売買契約の成立との間には因果関係が存するものと認められ、原告の媒介を排除して直接契約を締結したことについて正当事由の存することは認められないので、原告は被告に対して、仲介による報酬を請求しうるというべきである。
そこで、被告の支払うべき報酬額について判断する。
原告は、宅地建物取引業法第四六条に基づく昭和四五年建設省告示第一五五二号により算定した報酬額の支払を求めるので考えるに、右告示によると、売買の代金額二〇〇万円の部分について一〇〇分の五、代金額二〇〇万円を超え四〇〇万円までの部分について一〇〇分の四、代金額四〇〇万円を超える部分については一〇〇分の三と定められており、これを本件に適用すると、取引額が四七九八万円であることは前認定のとおりであるから、報酬額は一四九万九四〇〇円とな判旨る。しかし、仲介委託に際し右告示どおりの報酬の支払を受けることについて明示又は黙示の合意が当事者間に成立していたなどの特段の事情の存しない限り、当然には右告示による報酬額を仲介委託者に請求しうるということはできないし、また、右告示に定められた報酬額は、宅地建物取引業者がその取引によつて委託者に請求しうる報酬額の最高限度額を定めたにとどまり、右報酬額による報酬の支払を当然請求しうる根拠とはなり得ないものというべきである。<証拠判断略>
判旨ところで、不動産売買の仲介委託契約において、当事者間にその報酬の額について約定がなされなかつた場合に、仲介業者が委託者に請求しうる報酬の額については、前記宅地建物取引法に基づいて定められた報酬の最高額を考慮にいれ、具体的に成立した売買契約について、仲介業者がその媒介に要した労力、支出した費用、不動産の売買価格、委託契約成立の経緯等のほか、本件のごとく売買契約が仲介業者を除外して直接当事者間に成立したものである場合には、仲介業者による対象物件ないし相手方の紹介等の仲介行為が売買契約の成立に寄与した程度、通常予想される経緯により契約が成立した場合に仲介業者が委託者に請求しうる報酬額等諸般の事情を斟酌して決定するのを相当とするところ、これを本件についてみるに、前判示のとおり原告は、本件物件の売買にあたり、被告を案内して本件物件を見分させ、被告を売主側仲介業者に紹介し、売買交渉の機縁、端緒を与えたこと、その後の売買成立に至るまでの折衝、条件の決定、契約の締結、これに伴う事務処理等には関与していないこと、本件物件の売買代金は四七九八万円であること、その他諸般の事情を斟酌して、原告が被告に対して請求しうる報酬額は、前記告示により算定した金額の七割にあたる一〇四万九五八〇円をもつて相当と認める。
(金田育三)